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環境をつくる住まい

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.3 川添善行/空間構想一級建築士事務所
空間とコトをデザインする

03多様性をもつ空間の構想へ

最新技術は暮らしの空間にどのような影響をもたらすのでしょうか。ロボットの接客で注目される「変なホテル ハウステンボス」の設計を軸に、これからの空間づくりについて伺います。

川添善行/空間構想一級建築士事務所

川添善行(YOSHIYUKI KAWAZOE)

1979年神奈川県生まれ/東京大学卒業後、オランダ留学を経て、博士号を取得/東京大学准教授/主な建築作品に、ハウステンボスにある「変なホテル」(ギネス記録に登録)、「東京大学総合図書館別館」など/著書に「空間にこめられた意思をたどる」(幻冬舎)、「このまちに生きる」(彰国社)など

空間構想一級建築士事務所HP: http://kousou.org

技術によって変わること、変わらないこと

「変なホテル ハウステンボス」のフロント。人型や恐竜型のロボットの案内で、チェックイン、チェックアウトを行う。左のアーム型はクロークロボット。(撮影:新建築社)

——長崎県佐世保市にある「変なホテル ハウステンボス」は、最先端の技術を用いた建築です。どのような取り組みをしたのでしょうか。

川添「変なホテル」の第1弾となるハウステンボス(第1期)の基本設計を担当しました(2015年竣工/基本設計:川添善行+原裕介+大川周平+東京大学 生産研究所 川添研究室/実施設計:日大設計)。現在は全国展開していますが、新しいビジネスモデルを目標にハウステンボスのプロジェクトはスタートしました。建設費を抑え、ホテル経営の中で経費の大半を占める人件費と光熱費をいかに削減するかという課題に取り組んでいます。

建設費は、住宅メーカーの規格鉄骨材を用いたりすることで、従来の同型ホテルより約30%のコスト削減を実現。構造材を規格品としたのは、今後のホテル事業の展開にも対応することを想定したからです。

空調は、エアコンを使わず「輻射パネル」を使っています。輻射パネルというのは、中に冷温水を流して、パネルに周囲の空気が触れることでじんわりと空間を温めたり、冷やしたりするシステムです。建物のかたちも、庇で日射をコントロールしたり、建物を直線ではなく、凹凸のある配置とすることで、空気と光のスリットを入れるなど環境に配慮した構成にしました。その結果、運営努力も含みますが、光熱費は50%削減できる試算です。

そして、「変なホテル」の特徴はロボットによる接客。受付の顔認証システムで客室をキーレス開錠したり、ポーターロボットが荷物を運んでくれたり……。「変わり続けることを約束するホテル」というブランドのコンセプト通り、ロボットの進化と共に変化すると思います。

「変なホテル ハウステンボス」のカフェテリア。輻射パネルによって冷暖房を行う。(撮影:新建築社)

——AIなどの技術は、建築や空間のあり方を変えていくのでしょうか。

川添近代以降、工業化に伴ってそれまでの「建築」の概念にはなかった、エレベーターや空調などの機械技術が「建築」に入ってきました。暮らしは、さまざまな技術で成立していますから、生活空間である「建築」は、技術発展を取り込みながら関わる領域を拡大していく志向が強いと思います。「変なホテル」はスマートホテルと言われていますが、住宅も情報技術で空間を制御したり、最適化できるスマートハウスになる可能性があります。

僕は、東京大学生産研究所に所属しているので、そうした先端技術にふれる機会に恵まれています。「変なホテル」でも、たとえばロボットがスムースに動くために廊下の床にICチップを埋めるなど、これまでの建築設計ではなかった経験をしました。そのときに感じたのは、さまざまな技術や条件を空間として統合していくときに、新しい価値をもたらすことができるのが、建築家の役目なのではないか……。たとえると、1+1=2.1にできるデザインができるといいと思っています。

ただ、技術というのはすぐに変わっていくものですよね。いっぽうで、建築の歴史を振り返ると、古代ギリシャやローマでは建築様式や美しいプロポーションが重視されていました。現代人の僕たちも、そういう建築物や街並を見ていいなと感じますよね。そういう意味での建築は、変わらないと思います。僕は、人間にとって変わらず大切なことを見つけたいと思っています。ただ便利になるとかではなく、それを守ることができるのが未来の都市ではないかな……と。

空調には地下の蓄熱水槽に貯めた冷温水を用い、全館を循環させる輻射冷暖房。同型のホテルに比べ、約50%の光熱費を削減。ポーターロボットの動きを考慮した平面計画となっている。(図提供:東京大学川添研究室)

常識にとらわれない多様性のある空間へ

——これからの住まいについて、大切だと思っていることをお聞かせください。

川添01の「均質空間からの脱出」でも話ましたが、現代では住宅の間取りは「nLDK」というのが「当たり前」になっています。これは、経済合理性や、都市部に人口が集中していく社会状況の中で生まれてきた形式で、それが常識として定着したと思います。でも、みんながひとつのことを当たり前だと思い込んでいるというのは異常です。価値観が一辺倒になってしまうのは危ない社会なのではないでしょうか。

常識を、よい意味で超越できるのが人間の創造力だと思います。今は人口も減り、家族の形態も変化し、多様化していますから、大半の人の共感がなくても、少数の人の共感で成立する住宅もあると思います。そういうことに挑戦しながら空間をつくっていきたい。そこから、また新たなマーケットが生まれたりしたら面白いなと思います。

(Vol.3 川添善行/空間構想一級建築士事務所「空間とコトをデザインする」 完)

Vol.3 川添善行/空間構想一級建築士事務所「空間とコトをデザインする」全3回

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