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環境をつくる住まい

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.1 仲建築設計スタジオ
閉じすぎない環境に、楽しく住まう

01メダカとグリーンルーバーで自然に生まれる近所との会話

「軒先の植物やメダカに興味をもつご近所さんが声を掛けてくれ、地域でちょっとした人気者です(笑)」。そう語るのは、東京都内で建築設計事務所を営みながら、ふたりの子どもを育てる建築家のご夫妻・仲俊治さんと宇野悠里さん。「住戸を心地よく開くこと、閉じすぎないことで生活が楽しくなる」というお二人に、「住まいの開き方」のコツを伺いました。

仲建築設計スタジオ

仲俊治(Toshiharu Naka)

1976年京都府生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜08年山本理顕設計工場/2009年建築設計モノブモンを設立/2012年株式会社仲建築設計スタジオに改組

宇野悠里(Yuri Uno)

1976年東京都生まれ/東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了/2001〜13年日本設計/2013年〜株式会社仲建築設計スタジオ

仲建築設計スタジオHP: http://www.nakastudio.com/

脱住宅ってなんですか?

——仲さんは『脱住宅』という本を共著で刊行されました。住宅から「脱」するというのは、どういう意味ですか。

簡単にいうと、ひとつの核家族のための専用住宅の中だけで生活や幸せが完結しているというのは幻想で、周辺とつながりながら、もちつもたれつの関係をつくることで生活する方がラクだし楽しいよという考え方です。

日本は、戦後の高度経済成長期に、「4人の核家族が自立的な標準家族」と位置づけられ、それにあわせて、車や家電、住宅がつくられてきました。当時は「家族の幸せ」のモデルがハッキリとしていたんだと思います。でも現代は、家族構成が変化しています。都内区部の単身者世帯は約半数で、高齢者の単身も増えたり、夫婦共働きも増え、保育環境が整ってないことが問題になったりしています。

家族の変化もさることながら、ひとつの家族で育児も介護も教育も何もかもまかないなさい、他人に頼るのは恥ずかしい、という強制が働いていることや、住宅のあり方がそれを盲目的に補強していることが問題だと思います。

一方、インターネットの普及で、自宅で仕事ができるなど、働き方も変わりつつあります。そうなると、これまで標準とされていた、住まい方とは違う環境が必要になってきているのではないかと思っています。

家の中に働く場所があったり、あるいは子育てや介護のための空間があったりする。そこは外部から人が入ってきやすく、少しだけ開いた空間にする。そういうつくりの住まいこそが必要なんだと思います。

ちなみにこの『脱住宅』という本は、僕の建築設計の師匠である山本理顕さんとの共著です。山本さんが横浜国立大学で教授をしていたときに、大学院(Y-GSA)で「地域社会圏」という研究を一緒にしていました。モビリティ(交通)やエネルギーの問題など、さまざまな視点で現代の都市のあり方や住まいを考えていこうという研究でした。それをベースに、平易に書いた本ですので、ぜひ手に取って読んで下さい(笑)!

脱住宅——「小さな経済圏」を設計する』

『脱住宅——「小さな経済圏」を設計する』
山本理顕、 仲 俊治 著/平凡社刊(詳細はこちら)/2018年

内と外の間にある軒下空間が、気軽なコミュニケーションを生む

五本木の集合住宅
設計事務所、建築家夫妻の自宅、仕事場付き住宅(賃貸)2戸が入る。(撮影:鳥村鋼一)

——この「五本木の集合住宅」は、設計事務所兼ご自宅+仕事場付き賃貸住宅2戸なので、まさに職場と住まいの境界が曖昧な、脱住宅ですね。

宇野ここは、自分たちが子育てをしながら、仕事をし、暮らしている場所です。住まいの境界をどうデザインすれば、地域のひとたちと関わっていけるか、実践の場所です。

事務所の入口が道路に面していて、ガラス張りになっています。軒は深くて道路と扉の間には、グリーンルーバーと呼んでいる立体的な花壇兼目隠しがあります。柔らかく外部と繋がりつつ、視線はゆるく遮るようなつくりです。

近所の子が、家に帰ったらお母さんがいなくて、鍵をもっていないので、やってきたことがありました。警察や自治体が指定している「子ども110番の家」には目印となるステッカーが貼られているようですが、そういうのがなくても、中がなんとなく見えて、人が居る気配があると、子どもは入りやすいのだろうと思います。

この軒下空間は、仕事場のちょっとした延長で、仕事の合間に気分転換を兼ねてグリーンルーバーに水をやるとか、天水桶を掃除していると心地がいい。そうしていると、道行く人にふと声を掛けられることもしばしば。最近、軒下の天水桶でメダカを飼い始めたら、興味を示すご近所の人が多くなったよね(笑)

宇野そうそう。軒下のアイテムを増やしていくと、まわりの人との関わりが増えていく感じがします。

地域のコミュニティを結束するために、イベントをするという話を聞きますが、突然ひとつの部屋に集められて「さあ交流しましょう」というのはちょっと異様な気がしますよね。

それに比べて、住宅や仕事場の雰囲気をちょっとだけ外に延長したようなところであれば、会話も気軽ですよね。完全に閉じていない場所が重要です。参加するのも退去するのもラクですから。建築用語では「中間領域」と言いますが、心地よさを伴った中間領域でこそ、コミュニケーションがナチュラルに生まれると思っています。

グリーンルーバーの手入れをする仲さんと宇野さん。(撮影:稲継泰介)

ソーシャル×エコロジカル——ふたつの循環

——仲さんは、社会的(ソーシャル)な循環と、環境的(エコロジカル)な循環が大切だということをおっしゃっています。それはどのようなことか教えてください。

自分が小学生のとき、隅田川沿いの団地で過ごした体験が原点にあるように思います。

放課後の団地は、学童施設のような感じというのか、面白い光景がありました。公的な学童保育の施設がそこにあったわけではなく、それぞれの家の中で、主にお母さんたちでしたが、特技をいかして、音楽教室、お絵かき教室、本の読み聞かせ、天体観測などの先生をやっていました。いろいろな習い事があちこちの家で開かれていたという状況です。

団地の住宅のプランは、玄関を入るとキッチンとダイニングがあり、奥にいくとベランダに面した和室がふたつあるというつくりでした。だから廊下側を外に開きやすい、人を呼び込みやすい環境だったと思います。まずそのような空間の方向性というものがありました。

もうひとつは、隅田川沿いに団地があったことが大きい。隅田川は、風の通り道です。玄関を開け、ベランダ側の引戸を開けると、風が抜けるんですね。当時、エアコンが今ほど普及していたわけではなかったですから、夏場の団地は玄関を開けているのが普通でした。文字通り風通しのよい生活環境で、子供心に快適で楽しい団地だったのを覚えています。

建築家になって、改めて考えてみると、お母さんたちが住宅の中で社会的(ソーシャル)な活動を行うためのスキルと空間的な素地があったこと、それとエコロジカル(環境的)な意味で住宅が開かれていたこと。団地の中の小さな社会圏の中で、それらふたつが重なっていたのだと気がつきました。それが子どもたちにとっては、持続的で居心地のよい場所を生んでいたのではないかなと。

——住まいを適切に開くことで、社会的にも、環境的にもよい循環が生まれるということですね。
次回は、「五本木の集合住宅」の環境装置とエコロジカルな循環について、最終回はソーシャルな循環について、詳しくお伺いしたいと思います。

五本木の集合住宅 平面図
※図面を拡大してご覧になりたい場合はこちらをクリック(別ウィンドウで開きます)

2階のキッチン。日中は設計事務所の打合せ場所として使われるなど、住空間と職場の中間領域となっている。(撮影:鳥村鋼一)

Vol.1 仲建築設計スタジオ「閉じすぎない環境に、楽しく住まう」全3回

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