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環境をつくる住まい

時代が変われば、住まいも変わる。
これまでも住まいのカタチは、暮らす人のライフスタイルに合わせて変遷してきました。少子高齢化や空き家など住まいにまつわる課題も見えています。「環境をつくる住まい」では、これからの住まいの環境づくりを、気鋭の建築家の作品を通して読み解いていきます。

Vol.3 川添善行/空間構想一級建築士事務所
空間とコトをデザインする

01街とつながる方丈スナック

Vol.3は、「2018年の〈方丈記私記〉~建築家とアーティストによる四畳半の宇宙」展からスタートします。新潟県で開催中の「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」のメインイベントのひとつで、動乱の時代を小さな庵から見つめた鴨長明に倣い、2.73m角の小さな空間を建築家やアーティスト約30組が提案。参加作家のひとりで建築家の川添善行さんに、お話を伺いました。

川添善行/空間構想一級建築士事務所

川添善行(YOSHIYUKI KAWAZOE)

1979年神奈川県生まれ/東京大学卒業後、オランダ留学を経て、博士号を取得/東京大学准教授/主な建築作品に、ハウステンボスにある「変なホテル」(ギネス記録に登録)、「東京大学総合図書館別館」など/著書に「空間にこめられた意思をたどる」(幻冬舎)、「このまちに生きる」(彰国社)など

空間構想一級建築士事務所HP: http://kousou.org

人を通じてまちの文化に触れる場所

GRAPH+空間構想による「Karaoke&Humankind」で、地元スナックのママさんがお客さんをおもてなし(写真提供:空間構想)

——「2018年の〈方丈記私記〉」展の出典作品は「Karaoke&Humankind」という「スナック」です。なぜ芸術祭でスナックを提案したのですか?

川添仕事で地方都市にいくと、いちばん歴史のあるスナックにまず行きます。なぜかというと、そこには、まちのことをよくご存じのママさんがいて、その地域でコアな人が集まっていることが多い。そこで1〜2時間、歌をうたったりしながら話を伺うと、公的な「町史」などには載っていないまちの歴史や文化が見えてくる。スナックから見るまちの断面は、まちの未来にとっても重要なものだから、スナックの文化を大切にしたいと思っているんです。

越後妻有では、十日町で実際にスナックを経営するママさん8人にご協力いただいて、「出張スナック」という形で実現しました。スナックは、かたちではなく、そこにママさんがいることが大事なんです。その場にいる人みんなが楽しめるようにするプロですから。ひっきりなしに地元の人がママさんに会いに来てくれて、僕たちも見知らぬ人と友達になったり、知り合いが増えました。「コミュニティスペース」と言ってしまうとちょっと堅苦しいけれど、地域のコミュニケーションを誘発する場所。そういう場を必要としている人は多いのではないでしょうか。

地元のママさんが主役のアート作品なので、展覧会会場では、毎日16時〜19時、8人のママさんに営業していただきます。芸術祭を訪れた方々をママさんがもてなし、ここで仲良くなった人たちが、市内のスナックに足を運ぶ……。アートを見に来た人、とくに外国から来た人は十日町の夜のことはなかなか分からないでしょうから、作品を通じて世界と十日町がつながるきっかけになってほしいです。僕たちがいくら市街の地図をかいたところで伝わらないことがあります。まちと来訪者をつなぐには、やはりママさんがいないとだめなんですよね。ママさんたちには手弁当でお手伝い頂いているので、お礼がわりに応援プロジェクトを立ち上げました。

「Karaoke&Humankind」は、会期中16時〜19時はスナックとして営業。

使い方から空間を考える

「2018年の〈方丈記私記〉」展。約30作品が、「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」の柱廊に並ぶ。

——展覧会のテーマ〈方丈記私記〉を、どのように解釈していますか。

川添作品は公募で選ばれたもので、審査員は、芸術祭総合ディレクターの北川フラムさん、建築家の原広司さんと西沢立衛さんでした。北川さんは、2000年から大地の芸術祭を始め、ほかにも「瀬戸内国際芸術祭」(香川県)や、「奥能登国際芸術祭」(石川県)など、地方の豊かな環境の中で芸術を考え直す活動をされています。それは、美術館の箱の中で展覧会をやっていた時代への強力なカウンターだったと思います。地方創生が課題の昨今、時代が追いついてきたとさえ思います。

そして今、多くの地方都市が中心市街地再生を課題としています。そんなに簡単にできることではないけれど、〈方丈記私記〉展は、それをなんかやってみようという企画です。市街地の回遊性強化や賑わいに展開する「〈越後妻有方丈村〉百年構想」を掲げ、その「発想の起点」と、募集要項には書かれていました。10m2足らずの最小限の大きさで発想し、その小さなユニットが町に展開していったらよいのではないかというアイデアです。すごく面白いと、賛同しています。

方丈で何をするか、箱と使われ方の組み合わせを真摯に考えることが、ひとつのキーワードだと僕は考えました。ただ綺麗な箱をつくるということではないだろうと。そこで、スナックの雰囲気をつくるために、日暮里にベルベットをひたすら選びに行きました。どれが一番光沢があるかとか……。格好よくなりすぎないことが重要ですから(笑)。

オープニング時はまだ箱だけですが、それがどんどんと使い込まれ、チラシとかを中に貼っていってもらうと、町なかの情報が会場のアート空間の中に入ってくる。使われ方とそこに存在するかたちが混然一体となり、どこまでが設計者の仕事で、どこまでがユーザーのものか分からなくなるくらいになるといいなと、今後の展開に期待しています。

ほかの作品を見ても、美容院とかコーヒースタンド、マルシェなど使い方と方丈が強力にマッチングしているものがたくさんあります。ぜひ足を運んでみてください!

1:東京藝術大学美術学部建築科藤村龍至研究室「A SHELTER OF THE DIGITAL」
2:KIGI「スタンディング酒BAR 酔独楽・よいごま」
3:uug「Publish-Fablic ~地球に編まれる立体 MAGAZINE~」
4:シャン・ヤン(向阳)「TRANSFIGURATION HOUSE」
5:井上唯「asobiba / mimamoriba」
6:藤木隆明+工学院大学藤木研究室+佐藤由紀子「多孔体:2畳⊂4.5畳」

「Karaoke & Humankind」は、会期中に利用者がチラシを貼るなど、空間の設えを展開していくことを目指す。

均質空間からの脱出

——審査員の原広司さんは、「『方丈記』は局所性(ローカリズム)にまつわる建築論」だと言っています。20世紀の空間デザインがグローバリズムの潮流の中にあったとすると、地域性・局所性はこれらかのデザインのテーマになるのでしょうか。

川添この展覧会は、建築のあり方を考え直すことができる機会だと思います。僕たちは「ミース・ファンデル・ローエの美学を21世紀の建築家が超えられるか」ということを挑発的に言っています。ミースは、鉄、ガラス、コンクリートなど選ばれた素材を綺麗に組み合わせ、シンプルで、モダンな美しい建築をつくった建築家です。「ユニバーサル・スペース」(均質空間)という言葉の生みの親として知られています。

今も多くの建築は、そのバリエーションを繰り返し美しい建物をつくっていて、ひとつのデザイン戦略として定着している。でも、そのアレンジをひたすらやっていてよいのかというのが、〈方丈記私記〉で問われていることだと思います。革命的なものがいきなりできないことは分かっているけれど、でもやれるとしたら何だろうという問いが、創作の根底にあります。

連載は「環境をつくる住まい」なので、住居に関していうと、現代の住宅も「均質空間」の延長にありますよね。たとえば、駅から近い方がよいとか、nLDKと間取りも部屋の使い方も決まっていたりとか……。
でも、住んでいる人がもっと空間の利用方法を考えて表明していいと思います。そういうふうに住まいや街がなっていくといいなと思います。だから空間を使上手く使うママさんのいるスナックが大切なんです(笑)!

——次回は、「均質空間」ではない建築のつくり方についてお伺いします。

会場の「越後妻有里山現代美術館[キナーレ]」(原広司設計、2003年)に、レアンドロ・エルリッヒの新作「Palimpsest:空の池」が誕生。建物の鏡像が池の中に浮かび上がる作品。「大地の芸術祭」は、越後妻有地域(新潟県十日町市、津南町)の760km2で9月17日まで開催中。

Vol.3 川添善行/空間構想一級建築士事務所「空間とコトをデザインする」全3回

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